プラトン『ソクラテスの弁明 ほか』/中公クラシックス

ひげもじゃの胸像で有名なソクラテスソクラテスといえばプラトンプラトンの著作に出てくるソクラテスは、創作上の登場人物だけれども、その生涯については研究が進んでいて生まれた年から死にいたるまでが明らかになっている。ソクラテスといえば哲学史の中でも古典中の古典というか、この名前を知らないひとはいないだろう、というぐらい有名だが、どんな人物だったのかはこの本を読むまでよく知らなかった。若いころは戦争で武勲をあげたりと、わりと肉体派だったり、(当時としては)とっぴな言動でアテナイ市民の中でも有名で、喜劇作家の登場人物になったりしていたらしい。
プラトンソクラテスの弁明 ほか』には、ソクラテスが死刑にされるに至る裁判での自己弁明を描いた『ソクラテスの弁明』のほかに、判決をうけて牢獄にブチ込まれたソクラテスと彼に逃亡すすすめるクリトンとの対話を描いた『クリトン』、そして弁論術の大家ゴルギアスとの対話を描いた『ゴルギアス』の計三編が収録されている。

ソクラテスの弁明』
有罪にされても全然へこまないソクラテス。死刑か、もしくは申し出た刑罰に服するか、という局面で「じゃあ罰金1ムナ支払いましょう、あああ、友人たちが色々言ってくるので、やっぱり30ムナ(4万円くらい)支払いましょう」と宣言するソクラテスがちょっと面白い。これに裁判員たちがキレて「じゃあ死刑だ!」となる。それでも全くへこまないソクラテス

『クリトン』
死刑判決を受けて牢獄にブチ込まれたソクラテス。死刑は明日に迫っている。友人のクリトンが訪れて言う。
クリトン「かっこ悪くてもいいから生き延びろ!」
ソクラテス「自分らしく生きれないなら、それは俺じゃねえ!」
なんというアカギイズム。覚悟完了したソクラテスにクリトンはしおしおとひきさがるだけであった。

ゴルギアス
弁論術の大家ゴルギアスソクラテスが対話して、ソクラテスゴルギアスを言い負かす(?)という話なんだけど、ゴルギアスは私でもわかるような単純なミスを犯していて、それはちょっと揚げ足取りじゃないかなあと思った。要するにゴルギアスは「弁論術は善と悪とを知り、それを他人に伝え、説得し、また他人が弁論術を使えるようにもする」と言っていて、ソクラテスは「じゃあ弁論術を学んだ人は善とは何か、悪とは何か知ってるんだよね?だったら弁論術者は悪いことしないんだよね?でも現実には弁論術を使う悪人がいるじゃん、じゃあ弁論術ってなんなのさ」てな感じで論破しちゃう。
ちなみにこの『ゴルギアス』の後半は、若い政治家カリクレスとソクラテスの対話になっていて、こちらの方が迫力がある。『ゴルギアス』じゃなくて『カリクレス』って題名にしてもよかったんじゃないかなあ。カリクレスは「哲学なんてくだらねえ!現実を見ろ!社会に、政治にもっと目を向けろ!」と結構な剣幕でソクラテスに迫るんだけど、結局はソクラテスにのらりくらりとかわされて、最終的には「ああ・・・うん、まあ、そういう意見もあるだろうよ」と丸め込まれる感じ。結局カリクレスは(多分)納得しないまま対話を終えることになるんだけど、この対話の結論がまた「弁論術とは結局なんなのか」という、前半のゴルギアスとの対話についての結論にもなっていて、ソクラテスってなんか京極堂っぽいなあと思った。